FileSystemWatcher の使い方と注意点 - 取りこぼし、重複通知、完了判定の落とし穴
FileSystemWatcher は、Windows 上の .NET でファイル変更を監視するときにまず候補になる API です。
ただし、Created や Changed をそのまま完了通知だと思って使うと、取りこぼし、重複通知、途中ファイルの誤読でかなり普通に事故ります。
この記事では、FileSystemWatcher の使い方と注意点を、主に Windows 上の .NET によるファイル連携を前提に整理します。
あわせて、前提となる排他制御の考え方は ファイル連携の排他制御の基礎知識 - ファイルロックと原子的 claim のベストプラクティス も参照できる形にしています。
FileSystemWatcher は便利です。ファイルやディレクトリの作成、変更、削除、名前変更をイベントで受け取れます。
ただし、ここでイベントを「完了通知」だと思うと、かなり普通に事故ります。
たとえば、ファイルのコピー中に Created が先に飛ぶことがあります。Changed は 1 回とは限りません。短時間に変更が集中すると内部バッファがあふれて、個別の変更を取りこぼすこともあります。
なので、設計の芯はこうです。
- 通知はきっかけ
- 真実はディレクトリ再スキャン
- 所有権は原子的な claim
- 最後は idempotency で受け止める
この記事では、この考え方で FileSystemWatcher をファイル連携に組み込むときのはまりどころを整理します。
目次
- まず結論(ひとことで)
FileSystemWatcherで起きる勘違いパターン(図)- 2.1.
Createdを完了通知だと思う - 2.2.
Changedの回数と順序を信じる - 2.3. 内部バッファあふれで変更を失う
- 2.1.
- アンチパターン
- 3.1. イベントハンドラの中でそのまま処理する
- 3.2. イベント列から真実の状態を復元しようとする
- 3.3.
Changedが止まったら完了扱い - 3.4.
InternalBufferSizeを上げれば解決したと思う - 3.5.
Errorをログだけ出して無視する
- ベストプラクティス
- 4.1. 通知は「再スキャン要求」に畳む
- 4.2. 完了条件は送信側で明示する
- 4.3. 受信側は claim を原子的に取る
- 4.4. startup / overflow / 再接続時は full rescan する
- 4.5. idempotency を前提にする
- 擬似コード(抜粋)
- 5.1. 典型的な失敗パターン
- 5.2. 正しい方向の例(雑に書くとこう)
- ざっくり使い分け
- まとめ
- 参考資料
1. まず結論(ひとことで)
FileSystemWatcherのイベントは、完了通知 ではなく 変化の気配 ですCreated/Changed/Renamedは、重複したり、想像と違う順序で来たり、overflow 時には取りこぼしたりします- イベントハンドラでは重い処理をせず、再スキャン要求を積む だけにした方が安定します
- 完了判定は
temp -> close -> rename / replaceやdone/ manifest で 明示 するのが基本です - 複数ワーカーがいるなら、読む前に claim を原子的に取る 必要があります
InternalBufferSizeの調整は補助です。最後は full rescan と idempotency が効きます
要するに、FileSystemWatcher を「真実の履歴ストリーム」として扱わないことです。
通知はあくまで、「そろそろ見に行け」の合図に留めた方が壊れにくくなります。
2. FileSystemWatcher の使い方で起きやすい勘違いパターン(図)
2.1. Created を完了通知だと思う
これがいちばん分かりやすい地雷です。
コピーや転送では、ファイルが 作られた瞬間 に Created が飛び、そのあとに 1 回以上の Changed が続くことがあります。
sequenceDiagram
participant 送信 as 送信側
participant 共有 as watched dir
participant W as FileSystemWatcher
participant 受信 as 受信側
送信->>共有: orders.csv を作成
共有-->>W: Created
W-->>受信: OnCreated
受信->>共有: orders.csv を開いて読む
Note over 受信: まだコピー途中
送信->>共有: 残りを書き込む
共有-->>W: Changed
共有-->>W: Changed
Note over 受信: 行数不足 / JSON破損 / ZIP破損
Created は「名前が見えた」を表しても、「もう読んでよい」を保証しません。
ここを同じ意味にすると、前回の記事の 2.1 を別ルートで踏むことになります。
2.2. Changed の回数と順序を信じる
Changed は 1 回だけ来るとは限りません。
移動や保存のような普通の操作でも、複数のイベントに分かれて見えることがあります。さらに、ウイルス対策ソフトやインデクサが触った分まで拾うこともあります。
sequenceDiagram
participant App as 保存するアプリ
participant Dir as watched dir
participant AV as AV / indexer
participant W as FileSystemWatcher
App->>Dir: report.xlsx を保存開始
Dir-->>W: Created
Dir-->>W: Changed
App->>Dir: 一時ファイルから rename
Dir-->>W: Renamed
Dir-->>W: Changed
AV->>Dir: スキャン / 属性参照
Dir-->>W: Changed
Note over W: 1回だけ・この順番とは限らない
「Changed が 1 回来たら完了」「Renamed の次はもう触られない」という期待は、だいぶ危ういです。
補足:
- ファイル rename で
Changedが飛ぶことがあります RenamedEventArgs.Nameは、OS 側で old/new の対応が取れないとnullになりえます- hidden file も無視されません。隠し temp 名だから見えないだろう、は通りません
- 監視しているディレクトリそのものを rename しても、その変更は通知されません
2.3. 内部バッファあふれで変更を失う
FileSystemWatcher には内部バッファがあります。
短時間に変更が集中すると、ここがあふれて個別通知を取りこぼします。
flowchart LR
A[短時間に大量の変更] --> B[内部バッファに通知が溜まる]
B --> C{処理が追いつく?}
C -- はい --> D[個別イベントを順に処理]
C -- いいえ --> E[overflow]
E --> F[Error イベント]
F --> G[個別履歴の完全性を信用しない]
G --> H[ディレクトリを full rescan]
ここで大事なのは、「overflow が起きたら 1 件だけ失う」とは限らないことです。 個別イベント列の完全性そのものが怪しくなるので、素直に全体を見直したほうがよいです。
3. アンチパターン
3.1. イベントハンドラの中でそのまま処理する
これは、完了判定と所有権取得をイベントに背負わせすぎです。
watcher.Created += (_, e) =>
{
using var stream = File.OpenRead(e.FullPath);
Import(stream); // まだコピー中かもしれない
};
watcher.Error += (_, e) =>
{
Console.WriteLine(e.GetException()); // 出すだけ
};
問題は 2 つあります。
Createdの時点では内容が未完成かもしれない- 失敗や overflow の回復が無い
イベントハンドラは、再スキャン要求を立ててすぐ返す くらいがちょうどよいです。 ここで重い I/O や DB 更新まで始めると、バースト時に自分で自分の首を絞めます。
3.2. イベント列から真実の状態を復元しようとする
「Created で辞書に追加、Changed で更新、Deleted で削除、Renamed でキー差し替え」という設計は、一見きれいです。
ただ、重複、分割、overflow、外乱が入ると、だんだん辻褄が怪しくなります。
switch (e.ChangeType)
{
case WatcherChangeTypes.Created:
state[e.FullPath] = Pending;
break;
case WatcherChangeTypes.Changed:
state[e.FullPath] = Modified;
break;
case WatcherChangeTypes.Deleted:
state.Remove(e.FullPath);
break;
}
この方向で頑張るより、その都度 ディスク上の現物 を再確認した方が強いです。 ファイル連携で重要なのは、イベント履歴の再現 ではなく、今この瞬間に処理してよい対象を正しく見つけること です。
3.3. Changed が止まったら完了扱い
前回の「ファイルサイズが止まったら完了」と同じ匂いのする設計です。 便利そうですが、推測で完了を決めています。
if (lastChangedAt + TimeSpan.FromSeconds(10) < DateTime.UtcNow)
{
return Ready;
}
これで困るのは、たとえば次のようなケースです。
- 大きいファイルのコピーが途中で一時停止する
- 送信側アプリが複数段階で保存する
- ネットワーク共有で通知が遅れて見える
- 外部プロセスがあとから属性や時刻を書き換える
完了は 推測 ではなく 明示 した方が安定します。
3.4. InternalBufferSize を上げれば解決したと思う
InternalBufferSize の調整は大事ですが、これは設計の本体ではありません。
- 既定値は
8192バイト 4096バイト未満にはできず、64 KBを超えることもできない- バッファは non-paged memory を使うので、増やせば増やすほど気軽とは言えない
つまり、64 KB まで上げても、通知バーストがそれを超えたら終わりです。
しかも、完了通知かどうかの問題は 1 ミリも解決しません。
先にやるべきなのは、たとえば次です。
Filter/Filtersで監視対象を絞るNotifyFilterを必要最小限にするIncludeSubdirectoriesをむやみにtrueにしない- イベントハンドラを軽くする
- full rescan と idempotency を入れる
3.5. Error をログだけ出して無視する
Error は「たまに出るけど気にしない」種類の通知ではありません。
buffer overflow や、監視継続に失敗した状況がここに出ます。
watcher.Error += (_, e) =>
{
_logger.LogError(e.GetException(), "watcher error");
// ここで終わると、取りこぼしに気づいたのに回復しない
};
少なくとも必要なのは、次です。
- full rescan を要求する
- 監視継続が怪しいなら watcher の再生成も検討する
- 取りこぼし前提で idempotent に再処理できるようにする
4. ベストプラクティス
4.1. 通知は「再スキャン要求」に畳む
Created / Changed / Deleted / Renamed / Error を、それぞれ別々の業務処理に直結させない方が整理しやすいです。
まずは全部「見に行け」という 1 種類の信号に畳みます。
flowchart LR
A[Created / Changed / Deleted / Renamed] --> Q[scan request]
B[Error / overflow] --> Q
C[startup] --> Q
Q --> D[ディレクトリ再スキャン]
D --> E[ready な候補を列挙]
E --> F[claim を試す]
実装上のポイント:
- イベントハンドラでは
dirty = trueにして signal を出す程度にする - 走査は 1 本の worker に寄せる
- バースト時は 100〜300ms ほどまとめてから 1 回走査する
- 走査中に追加通知が来たら、終わったあとにもう 1 回走査する
こうすると、イベントが 5 回来ても 50 回来ても、最終的にやることは「現物を見て ready なものを探す」に統一できます。
4.2. 完了条件は送信側で明示する
自分が送信側も握れるなら、FileSystemWatcher 側で完了判定を頑張るより、公開プロトコルを直した方が効きます。
王道は、やはりこれです。
temp名に全内容を書くcloseする- 同一ファイルシステム上で
rename / replaceする - 必要なら
done/ manifest を最後に置く
flowchart TD
A[data.tmp に全内容を書く] --> B[flush / close]
B --> C[data.csv に rename / replace]
C --> D[data.done / manifest.json を置く]
D --> E[受信側は final 名や done だけを見る]
前回の記事と同じですが、ここが本当に効きます。
FileSystemWatcher は完了を発明する道具ではなく、明示された完了を早めに見つける道具 と考えると整理しやすいです。
4.3. 受信側は claim を原子的に取る
再スキャンで ready な候補が見つかっても、そのまま読みに行くと複数ワーカーが同時に掴めます。 なので、処理前に claim を原子的に取ります。
sequenceDiagram
participant Scan as scanner
participant IN as incoming
participant P1 as processing/worker1
participant P2 as processing/worker2
Scan->>IN: order-123 を発見
Scan->>P1: rename order-123
Scan->>P2: rename order-123
Note over P1,P2: 先に成功した方だけが所有権を持つ
前回の記事でも触れた通り、incoming -> processing/<worker>/ の rename が分かりやすいです。
特に 本体 + manifest + 補助ファイル を 1 つのディレクトリにまとめておくと、bundle 単位で claim できるので楽です。
incoming/
order-123/
payload.csv
manifest.json
これなら、bundle directory を 1 回 rename するだけで所有権を取れます。
4.4. startup / overflow / 再接続時は full rescan する
これはかなり大事です。
- アプリ起動前から置かれていたファイルは、イベントでは拾えません
- overflow が起きたら、個別イベント列は信用しにくくなります
- ネットワーク共有や一時切断が絡むと、「その間の何か」が抜ける前提で見た方が安全です
なので、少なくとも次のタイミングでは full rescan を入れた方がよいです。
- 起動時
Error受信時- watcher を作り直した直後
- 定期的な保険として一定間隔ごと
ここでの思想は、「watcher は差分のヒント、再スキャンは整合性の回復」です。
4.5. idempotency を前提にする
FileSystemWatcher を使うと、同じ対象を複数回見に行くことになります。
これはバグではなく、設計として受け入れた方が安定します。
たとえば次のようにします。
- manifest に
IdempotencyKeyを入れる - すでに処理済みなら副作用を再実行しない
- archive 済み / DB 記録済み / 送信済み を照合できるようにする
- full rescan しても「同じものをもう一度安全に見る」だけにする
exactly-once をイベントだけで作ろうとすると、だいぶ苦しくなります。 at-least-once を受け入れて、最後を idempotency で締めた方が実務では強いです。
5. 擬似コード(抜粋)
5.1. 典型的な失敗パターン
using var watcher = new FileSystemWatcher(incomingDir)
{
Filter = "*.csv",
IncludeSubdirectories = false,
EnableRaisingEvents = true,
InternalBufferSize = 64 * 1024
};
watcher.Created += (_, e) =>
{
// Created = 完了通知、と思い込んでいる
ProcessFile(e.FullPath);
};
watcher.Changed += (_, e) =>
{
// 何度も来るので、とりあえずもう一回処理
ProcessFile(e.FullPath);
};
watcher.Error += (_, e) =>
{
Console.WriteLine(e.GetException());
// 回復しない
};
問題点は 4 つあります。
Created/Changedをそのまま業務処理に結びつけている- 完了判定が無い
- overflow 時に full rescan しない
- 同じファイルを何回処理しても止める仕組みが無い
5.2. 正しい方向の例(雑に書くとこう)
private readonly SemaphoreSlim _scanSignal = new(0, int.MaxValue);
private int _scanRequested = 0;
private int _fullRescanRequested = 0;
void OnAnyChange(object? sender, FileSystemEventArgs e)
{
RequestScan(full: false);
}
void OnRenamed(object? sender, RenamedEventArgs e)
{
RequestScan(full: false);
}
void OnError(object? sender, ErrorEventArgs e)
{
Log(e.GetException());
RequestScan(full: true);
}
void RequestScan(bool full)
{
if (full)
{
Interlocked.Exchange(ref _fullRescanRequested, 1);
}
if (Interlocked.Exchange(ref _scanRequested, 1) == 0)
{
_scanSignal.Release();
}
}
async Task ScannerLoopAsync(CancellationToken cancellationToken)
{
RequestScan(full: true); // startup scan
while (!cancellationToken.IsCancellationRequested)
{
await _scanSignal.WaitAsync(cancellationToken);
// 通知バーストを少しまとめる
await Task.Delay(TimeSpan.FromMilliseconds(200), cancellationToken);
Interlocked.Exchange(ref _scanRequested, 0);
bool full = Interlocked.Exchange(ref _fullRescanRequested, 0) == 1;
foreach (var bundle in EnumerateReadyBundles(incomingDir, full))
{
var claimedPath = Path.Combine(processingDir, bundle.Name);
if (!TryClaimByRename(bundle.Path, claimedPath))
{
continue; // 他ワーカーが先に取得
}
var manifest = ReadManifest(Path.Combine(claimedPath, "manifest.json"));
if (AlreadyProcessed(manifest.IdempotencyKey))
{
MoveToArchive(claimedPath, archiveDir);
continue;
}
ProcessBundle(claimedPath);
RecordProcessed(manifest.IdempotencyKey);
MoveToArchive(claimedPath, archiveDir);
}
if (Volatile.Read(ref _scanRequested) == 1)
{
_scanSignal.Release(); // 走査中に来た通知を取りこぼさない
}
}
}
この例で大事なのは、細かい API ではなく流れです。
- 通知は scan request に畳む
- 走査で ready を見つける
- claim を取る
- idempotency を確認する
- 処理して記録し、archive に動かす
FileSystemWatcher のイベントは、ここでは trigger でしかありません。
6. ざっくり使い分け
-
単一受信ワーカー / 自分で送信側も直せる
まずはtemp -> close -> renameと startup scan。これだけでもかなり安定します。 -
複数受信ワーカーがいる
上に加えてincoming -> processingの claim rename を入れた方がよいです。 -
高頻度で通知が多い
Filter/NotifyFilter/IncludeSubdirectoriesを絞り、イベントハンドラを極小化します。InternalBufferSizeの調整はそのあとです。 -
overflow して困る / 取りこぼしが許されない
full rescan を前提にし、それでも厳しいならFileSystemWatcher単体に賭けない方がよいです。Windows 限定なら USN change journal も選択肢になります。 -
相手システムの書き方を制御できない
完了条件を推測で補うより、公開プロトコルを交渉できないかを先に考えた方が安全です。無理なら、保証水準を下げた上で idempotent に受ける設計に寄せます。
最後の 2 項目は、わりと大事な撤退判断です。
FileSystemWatcher は便利ですが、万能の真実検出器ではありません。
7. まとめ
押さえたい点は次です。
排他制御と完了判定の本体:
FileSystemWatcherは 完了通知の代わり ではない- 真実はイベント列ではなく、いまディスク上に見えている状態
- 完了は
temp -> close -> rename / replaceやdone/ manifest で明示する - 所有権は claim を原子的に取って決める
避けたい設計:
Createdで即処理Changedの回数や順序を信じるChangedが止まったら完了扱いInternalBufferSizeだけで安心するErrorを見たのに回復しない
実務で効く対策:
- 通知は再スキャン要求に畳む
- startup / overflow / 再接続で full rescan
- claim rename で所有権を取る
- idempotency で重複と再走査を受け止める
つまり、FileSystemWatcher では「イベントを受けたこと」と「処理してよいこと」を同じにしないのがコツです。
ここを分けるだけで、たまにだけ壊れるタイプの監視処理がかなり減ります。
8. 参考資料
- 関連記事: ファイル連携の排他制御の基礎知識 - ファイルロックと原子的 claim のベストプラクティス
- FileSystemWatcher Class (System.IO)
- System.IO.FileSystemWatcher class - .NET
- FileSystemWatcher.InternalBufferSize Property (System.IO)
- FileSystemWatcher.Error Event (System.IO)
- FileSystemWatcher.Created Event (System.IO)
- FileSystemWatcher.Changed Event (System.IO)
- FileSystemWatcher.Renamed Event (System.IO)
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